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週刊!横尾和博
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今週の気になる? Vol.316

        第316回 【人間は「猿」より偉いか?】

編集部:今週の「気になる?」です。

横尾 :桐野夏生の新刊『猿の見る夢』(講談社)が出ました。

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編集部:どのようなストーリーですか?

横尾 :主人公は59歳の元大手銀行員。
    いまの出向先は女性向けのファストファッションメーカーで、役職は取締役。
    近く都内に二世帯住宅を建築予定で、十年来の愛人との関係も良好。
    だが、会長から社長のセクハラ問題を相談され、その事件をきっかけに
    主人公の人生は変わっていく、というサラリーマン物です。

編集部:中高年男性の物語なのですね。

横尾 :はい、男性が読む週刊誌に連載していたので、中高年男性の読者を想定して
    興味をひくようになっています。
    でも本質は人間の「愚かしさ」を描いた小説です。

編集部:それが題名にもある「猿」ですか?

横尾 :ボクはそう読みました。
    本文の中に日光東照宮の「三猿」がでてきます。
    「見ざる、聞かざる、言わざる」で有名です。
    この例えは、事なかれ主義のことではなく、孔子が『論語』で言っている
    意味は「礼なきことは…」という言葉がついています。
    「礼節にそむくようなことは見ない」というように。
    つまり礼節を重んじるということです。

編集部:人間の徳を説いているんですね。

横尾 :そうです。
    現代はあまりにも「礼なきこと」が多すぎて、人々はやりたいように
    振る舞っています。
    この小説の登場人物たちはそれを象徴しています。
    小説のテーマは「人間は愚かしくて、すぐ自分の欲望に負けてしまう」、
    その人間とはいったい何だろう、という問いだと思います。
    桐野夏生の文学はエンターテイメントのおもしろさで、
    人間に関する深いテーマを提起していて、味わいがありますね。

  by weekly-yokoo | 2016-08-31 11:13 | 今週の気になる?

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