週刊!横尾和博
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今週の気になる? Vol.291

    第291回 【震災文学特集①柳広司『象は忘れない』】

編集部:さて今週の気になるは、先週の続きで「震災文学」がテーマですね。

横尾 :はい、3・11から5年で最近の震災文学を検証しています。
    今回は先週予告しましたように、この2月10日に出た
    柳広司『象は忘れない』(文藝春秋)です。

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編集部:内容を紹介してください。

横尾 :5つの短編から構成されています。
    「道成寺」「俊寛」など能の演目の題名がついています。
    すべて福島の原発事故の後、翻弄される庶民の姿を描いた作品です。

編集部:なるほど、深刻な話ですね。

横尾 :「道成寺」は福島原発の城下町で、電力会社の孫請けで働く地元出身の若者が
    経験した原発事故です。
    よその土地から来て知り合った彼女が、事故前に原発の危険性を指摘しますが、
    「原発城下町」で育った彼は意に介さず、彼女と破局を迎え、
    その2週間後に東北地方を巨大地震が襲った、との設定です。
    彼は事故直後の福島原発3号機の圧力の上昇した格納容器のベント(排気)の
    ために決死隊として原発深部に入り、その凄惨な様子を目撃。
    爆発で吹き飛ばされ、被爆した彼が病院のベッドで幻視するのは、
    白い着物に烏帽子姿で波の上に踊る彼女の姿、という話です。 

編集部:原発安全神話と事故の実態の大きな落差ですね。

横尾 :そうです。
    原発事故後、いまだに福島から避難している人たちは自主避難も含めて、
    10万人以上います。
    その生活の実情や心の陰をボクたちは知りません。

編集部:短篇集のタイトルの「象」には何か意味があるのですか?

横尾 :題名は英語の諺で「象は非常に記憶力が良く、自分の身に起きたことは
    決して忘れない」から使われているようです。
    忘れやすい日本人、そして忘れさせようとする政治家、官僚、電力会社など、
    原発事故がなかったことにしよう、あるいは被害は最小限、という時代の
    雰囲気、空気のいま現在を痛烈に小説という形で批判しています。
    忘れやすいボクたちは「象」以下なのでしょうか。
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  by weekly-yokoo | 2016-03-02 10:30 | 今週の気になる? | Comments(0)

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