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週刊!横尾和博
月刊!横尾和博

今週の気になる? Vol.231

                  第231回 【文芸回顧2014】

編集部 :今週の気になるですが?

横尾 : この季節、どこの新聞やテレビも1年間を振り返る回顧モノが目立ちます。
      そこでボクのフィールドワークである文芸の分野で1年を振り返ってみたいと
      思います。

編集部: はい、お願いします。

横尾 : 今年の文学の分野の動きには大きな特徴があります。
      3・11東日本大震災以降「震災文学」がかなり生まれました。
      その「震災文学」が、3年たってSFのような、近未来社会のディストピアもの
      (反ユートピア)が増えたことです。

編集部: たとえば?

横尾 : 代表的な小説は、吉村萬壱『ボラード病』です。
      以前にもこのコーナーで紹介しましたが、大きな厄災のあとの不気味な同調社会、
      監視社会を描きだしました。
      吉村は暮れにも『臣女』(おみおんな)という、妻が巨大化するグロレスクリアリズムの
      小説を発表しました。
      他には、同じような近未来小説、多和田葉子『献灯使』、村田沙耶香『殺人出産』
      などがでました。
      あとは辺見庸の『霧の犬』も、幻想的な小説で災害後の破滅的状況、近づく全体
      主義を予兆させています。

編集部: なぜそのような震災文学が生まれたのでしょうか?

横尾 : 震災後3年経って作家のなかで、心の化学変化が生まれたということでしょう。
      最初はリアリズムや比喩や象徴での表現作品が多く生まれましたが、
      明らかな終末を予感させる小説が1年間にこのように4冊も出るということは、
      変化の兆しです。

編集部: ほかの作品では?

横尾 : 作家は世の中の流れがどうであれ、無関係に自分の鉱脈を掘り続けることが大切
      です。
      デタッチメント(関わりのなさ)という考え方です。

編集部: なるほど。

横尾 : 村田喜代子『屋根屋』は、夢と現実が交錯する細かい心理の糸の有り様を示し、
      評判が高かったです。
      津村記久子『エヴリシング・フロウズ』は、少年少女たちの息苦しさの肌感覚を
      描きました。
      作風を変えた島本理生『Red』も官能小説と銘打ち注目されましたね。
      芥川賞こそ逃しましたが、戌井昭夫『どろにやいと』がもつ土俗のグロテスク。
      保坂和志『朝霧通信』も子ども時代の思い出にふけるという著者特有のモチーフで、
      美しい作品です。

編集部: こうしてみると多様な作品が生まれましたね。
       今後の注目は?


横尾 : 芥川賞をとった柴崎友香の作品。
      文芸批評分野でも新しい動きが起こりつつあります。
      2015年に注目です。

  by weekly-yokoo | 2014-12-17 11:18 | 今週の気になる?

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